■ 原告団及び弁護団声明


 本日,東京地方裁判所第2民事部(岩井伸晃裁判長)は、全国の歯科技工士81名が、国に対し海外委託による歯科技工が禁止されることにより、歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認すること等を求めた訴訟において、原告らの請求を退ける不当な判決を下した。

 患者の口腔内に装着される義歯等は、なによりも安全なものでなければならない。 そのため、歯科技工士法は歯科技工士制度を設け、歯科技工士または歯科医師でない者(無資格者)による歯科技工を禁じるなど厳しい規制を及ぼすことで、粗悪な義歯等が作られることのないようにしている。
 ところが、昨今、海外に歯科技工を委託することが増えるに連れて、無資格者が海外で技工した義歯が輸入されて患者の口腔内に装着される事態が生じている。
 このような事態を放置しておくことは歯科技工士制度の根底を崩壊させるものであり、国民の安全な歯科治療を確保しようとした歯科技工士法の趣旨を失わせるものである。

 しかも、国内においては、歯科技工に利用する材料の安全性について厳しく規制されているのに対して、海外での歯科技工に関しては、日本自ら材料の安全性を検証することはできない。 このように歯科技工の海外委託には、多くの問題点が指摘されているにもかかわらず、国は歯科医師の裁量に委ねるだけであり、実態調査すらもおこなわずに歯科技工の海外委託を放置している。

 そこで、原告らは国民への安全な歯科治療を守るために、国に対して海外委託による歯科技工が禁止されることにより、歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることの確認を求めるとともに、国は海外委託の実態調査すべき義務などに違反するなど、違法な行為を行っていることなどを理由とする損害賠償を求めて提訴した。

 これに対して本判決は、歯科技工の海外委託の実態に何ら言及することなく、法律上の利益及び確認の利益が無いと言ういう所謂入り口論で確認の訴えを却下するとともに、国は個々の歯科技工士に対して職務上の法的義務を負担していないとの理由で、損害賠償請求も棄却するという不当な判決を下した。

 原告らは、歯科技工の海外委託が許されないということについて明確な判断を求めたにもかかわらず、本判決はその判断を回避した。 したがって、本判決によって歯科技工の海外委託が許されたわけではないことに留意すべきである。 むしろ本判決は「一般に業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果、歯科技工士法上または条理上、所轄行政庁においてその違反の有無について調査し、その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められる」と述べている。

 これは、無資格者による歯科技工等が認められる場合には、その違反の有無を調査し、それを止めるよう指導すべき国の責任を明確に認めたものである。 歯科技工の海外委託においては、無資格者による歯科技工が行われているとの問題点が繰り返し指摘されていることからすれば、国は、本判決が指摘したように、歯科技工の海外委託に関して違反の有無を調査し、それをとめるよう指導すべきである。

 原告団及び弁護団は、本判決を不服としてただちに東京高等裁判所に控訴するとともに、本日の判決を機に、国民の安全な歯科医療の実現のために不可欠な歯科技工士制度を維持・発展させる見地から、歯科技工の海外委託問題を最終的に解決するために最後まで戦い抜く所存であることを表明し、本判決に対する声明とする。

2008(平成20)年9月26日
歯科技工海外委託問題訴訟原告団 
 代表 脇 本 征 男
歯科技工海外委託問題訴訟弁護団 
 川 上 詩 朗

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